モダニズム建築の名作の一つと言われるロームシアター京都(旧称:京都会館)は、実は当事務所から歩いて行ける距離にあります。この建物を見ていると、竣工50年後以降も喜んで使ってもらえるかどうか、が良い建築デザインの基準ではないかと思えてきます。
かつて京都会館と呼ばれていたこの建物は、1957年の指名設計コンペで選ばれた前川國男によって設計され、1960年に完成・開館しました。そして50余年後の2010年代に、当初のデザインを尊重しながら全面的な改修と増改築が実施され、これからの市民のための総合舞台芸術文化施設として再生されています。
当初のデザインである打ち込み外装タイルや外観上の特徴である深い軒(大庇)やバルコニーが、耐久性という基本的な価値なしには良い建築デザインは成立しない、と語りかけてくるような気がします。
耐久性に関して、建築家(設計事務所)は、誰の目にも触れない隠蔽部位の設計や工事監理にも力を入れることが少なくありません。例えば 木造の在来軸組構法の建築では、構造材がゆっくり乾燥収縮してボルト接合部分が緩んでしまうのを防ぐために、バネやゴム付きの座金を用いるよう設計図書で指示し、施工を確認します。このほか、耐力壁の合板の釘打ちについても、釘の仕様、サイズ、間隔、めり込み深さなどが設計通りかどうか工事現場で確認し、設計上の耐震性を確保します。構造に限りませんが、このような地味で人目に触れない設計の詳細と工事現場での確認作業の積み重ねが、建築の耐久性につながります。