YAMADA
ARCHITECTURE
ヤマダ・アーキテクチュア
The 3R House
3R ハウス
築90余年のかなり傷んだ長屋(町家)の全面改修。敷地は高野川から徒歩数分の静かな路地に面した4軒長屋の端。
日本は「建物を壊してはまた新しく建てる」国として世界に知られていますが、この長屋のように細い路地に面した建物は放置される場合も多いようです。その理由は、原則として日本の建築法規では、路地のみに接道する土地での建て替えなど大規模な工事ができないことが挙げられます。
問題なのは、こうした路地の町家に一旦人が住まなくなると空き家のまま荒れ果ててしまう場合が多いことです。路地の町家には浴室が備わっていない物件が多く、現代の基準からすればとても快適とは言えない住宅です。また不動産価値が低いため、所有者も建物にお金をかけて手入れするのを避けたくなります。
この既存物件もそんな経緯で荒れ果ててしまった路地長屋でした。長年の放置で構造体まで朽ち、危険なほど傾いていました。そんな物件を格安で購入した施主のご要望は、新築と同じぐらい新鮮で快適な住み心地の賃貸住宅に再生することでした。これに応えるべく、ヤマダが提案したのは、既存町家の外皮と最小限の柱梁のみを残し、その内部に基礎から造り込む、いわば新築に似た全面改修。
町家建築に不可欠とも言える坪庭を復活させながら、1階の随所から坪庭が見えるよう、オープン・プランとしています。
「庭と空を見ながら暮らす」ための開放的な空間づくり。
これが設計の主眼でした。ダイニング上部に相当する部分の既存2階床梁は朽ちていたため、減築して吹き抜けとしました。その吹き抜けを通して、2階の窓から自然光が降り注ぐとともに、2階の廊下からも坪庭が見えます。1階の洗面・脱衣・洗濯室も高窓や欄間窓、室内高窓によって自然採光が確保されています。
2階の空間は勾配天井で、間仕切り壁が天井まで達しない高さであるため、開放的です。東に面した妻壁に穿たれた高窓からは、十分な自然光と空の眺めがもたらされます。白い壁と無垢の木材だけの簡素な仕上げが自然光を拡散することでで空間の開放感がさらに高められています。
ほぼ全ての内装が新築ですが、九十余年前の竣工時の小屋組や曲がり丸太梁、並びに数本の床梁が残されてあらわしで見せられており、この長屋の歴史を感じさせてくれます。
内壁の開口のアーチ型隅部には耐震ダンパーを納めています。既存の外周部を除き、この住宅の構造は、伝統工法のように、新たに打ったベタ基礎の上に緊結アンカーなしで乗っかっています。いわば昔ながらの免震構造です。温熱環境については、複層サッシと外周壁および屋根の断熱材により、現代住宅並みの快適性を図りました。
おもての外観は90余年前の竣工当初から残る出格子を中心に、伝統的な意匠に沿った改修を実施しました。玄関の建具も木製の格子戸としています。木製格子の佇まいが、伝統的な路地らしさを醸し出し、近隣の人々と相互に暮らしの気配を感じられる路地空間を形成しています。
放置され荒れ果てた路地の町家を、近隣を感じつつ何世代にもわたって暮らせる快適な住宅に更新することを、この3Rハウスの設計では目指しました。
(写真:杉野 圭)
建築の概要
木造2階建て長屋
全面改修
所在地
京都市内
規模
床面積66 平米
(1F+2F)